期初目標はもう古い?−現地法人にこそ必要な”動的戦略”と“納得感ある目標管理”とは
2025年4月
―「期初の目標」はもう時代遅れ?変化に対応する事業戦略と人事評価の関係
変化の激しい現代において、「期末に一度きりの人事考課ではなく、上司と部下の日常的なフィードバックや対話が成果と納得感ある評価につながる」と言われて久しくなりました。これはマネジメントや組織論の文脈では、すでに常識となりつつあります。
しかし、事業戦略の運用においては、未だに「期初に立てた数値目標をもとにPDCAサイクルを回す」前提が根強く残っています。日々状況が変わる中で、期初に立てた目標が期中に現実と乖離してしまうケースも少なくありません。
―戦略が現実とズレると、評価制度も形骸化する
多くの経営書や研修では、今でも「徹底した市場分析・競合分析をもとに期初に正しい目標を設定し、PDCAを回す」ことが推奨されています。
ここで言う「正しい目標」とは、前年実績の単なる上乗せではなく、経営的に意味のある数値目標であり、社員一人ひとりが納得できるよう意味づけして分配することを指します。
しかし現実には、環境変化により期初の目標が陳腐化することも多く、目標管理制度そのものが形骸化するリスクをはらんでいます。
その結果、社員のモチベーションやエンゲージメントが低下し、PDCAも「やっているだけ」になってしまうのです。
事業戦略もまた、必要に応じた期中での見直しがあって然るべきではないでしょうか。
―ケーススタディ:ある経営者の戦略的ピボット
ある製造業の海外現地法人のお話です。
同社は長年にわたり、顧客である自動車メーカーの設備投資タイミングに合わせた大型受注に大きく依存していました。しかし、その需要の規模感はもともと波が大きく、さらに今後数年間にわたって設備投資の縮小が見込まれるという情報が入ってきました。
ところが当時の事業計画は、過去のトレンドに基づき、同メーカーからの受注を見込んで構築されたもの。その他の事業はまだ規模が小さく、売上を代替するには遠い状況でした。
予算達成のためには同メーカーからの受注は必須であるものの、実現可能性が低いことは社員も感じており、このままでは週次・月次のPDCAは形骸化して、メンバーのモチベーションも日々低下していく――。
そう判断した社長は、期中での大幅な事業戦略の見直しに踏み切る決断をしました。
―ビジョンに立ち返り、事業の軸を再定義
この決断のために立ち返ったのが「自社は何のために存在しているのか?」という問いでした。
そこで見えてきたのが、当地域の顧客にとって不可欠な消耗品を提供する第二の事業。まだ収益性は低いために、どちらかというと主要業務の片手間で行う位置付けに置かれていたものの、この事業を強化することで、「将来的に現地メンバー主体で自走できる組織を目指す」という、社長のビジョンと重なったのです。
この新しい方向性を社員にも繰り返し共有し、特に良くも悪くもキーマンとなりそうな社員とは腹を割って対話。当初は社長も、社員が機動的に動いてくれるか不安を抱えていたものの、一人ずつ腹落ちするまで対話を重ねることで、組織の一体感はむしろ高まりました。結果的には、社員からも目標達成のために主体的な意見が多く出るようになったそうです。
―戦略も人事も「変化に強く」
既存の収益源を活かしながら新規事業に取り組む「両利きの経営」は、多くの企業に求められる経営モデルです。しかしそれは、環境の変化に応じて資源の配分や優先順位を柔軟に見直すことが前提にあって初めて成立します。
そして、その変化を社員の目標設定や人事評価にもタイムリーに反映させること。すなわち、人事評価制度が動的なものであると同時に、戦略もまたアジャイルな仕組みとして設計されなければなりません。
―まとめ:組織力強化にはまず戦略から
戦略人事という言葉はすでに死語になりつつありますが、役割定義や人事評価制度をいくら刷新しても、事業戦略との整合性が取れていなければ、人は動かず成果につながりません。
変化の激しい時代だからこそ、「組織の活性化」と「対話」を現場のリーダーシップに依存するのでなく、戦略とマネジメントの接点にこそ、経営の意思決定が求められているのではないでしょうか。
外国人部下の評価を下す前に -ちゃんと目標設定されていますか?
さて、そのハネムーン期。人によって程度や期間は異なりますが、赴任後数ヶ月経ってフェーズの変化を迎えていそうな管理職の方とのセッションが増えてきました。四半期の変わり目で1on1をされていたり、人材の異動があったりと状況はさまざまですが、部下のマネジメントにおける問題が徐々に顕在化し始めるタイミングのように思います。赴任初期から現地スタッフとも意識的にコミュニケーションをとって、一見無難にスタートしたように見えた方こそ、戸惑いを感じ始めるころかもしれません。海外でよくあるお悩みは、上司である自分から見ると部下の成果が期待したほどではないが、本人の自己評価が高いというもの。 着任した当初は市場や社内事情に明るい人材が頼りになるように見えたけど、実は新しいことに消極的で・・というようなケースをよく聞きます。
そんな時に考えていただきたいのは、その方の役割と目標はどのように設定されているかということ。そして、それは上司も部下本人もしっかり共通認識となっているかどうかということです。
これまで色々な国で仕事をしてきましたが、地域を問わず、実は現場で感じるパフォーマンスの問題は、個人の能力でなく役割認識に起因することが多いです。
現場で意外と忘れられがちなのは、目標設定なくして評価はできないこと。何をもって成果とするのか、そのためにどのようなプロセスが必要なのか、その部下は完全に理解していると言えるでしょうか?
マネジメントの大切な役割の一つが人事評価ですが、結局のところ期末に声の大きさを競い、鉛筆を舐めて評価を決めているという話は今でも耳にします。
ある企業の現地法人では、現地社員のエンゲージメントの低下を問題視し、人事改革に取り組んだところ、若手からベテランまで多くの社員が「自分はプロジェクトマネジメントをしているのに、同僚と比べて評価が低い」と感じていることがわかりました。当然ながら、人によって担当している業務の幅や難易度に差があるのですが、これまでの仕組みと上司の説明不足、部門の力関係などが認識のずれを生んでしまっていました。
本来、目標管理とは期初に決めた目標に対して達成度合いを測定し、人材のさらなる育成を目的として活用するものです。昨今言われるように、環境変化のペースが早いために頻度高く目標を変えていくというのも原理は同じです。
そして、メンバーひとりひとりに適正に目標を設定して、支援しながら本人の能力を引き出して成果を上げていくのがマネジメントの役割となります。
その時に、各人の等級や役割に合わせた目標設定と認識合わせが重要なのはいうまでもありません。「部下もわかっているはず」という前提でそのプロセスをおざなりにすると、自己評価と上司評価のずれを生んだり、モチベーションの低下を招いてしまいます。また、外資企業との採用競争の中で、評価の不透明さは、日本企業への就職人気が落ちている要因の一つともなっています。
この部下は能力が低いと決めつけたり、外国人は自己主張が強いというステレオタイプでまとめてしまう前に、四半期の変わり目のタイミングで、改めて部下ひとりひとりの現状と期待を見直してみるのはいかがでしょうか。 業務のアサインメントを大きく変えるのは難しいかもしれませんが、なぜあなたにこの仕事を依頼していて、どのような成果を期待しているのか、その先にどんな展望があるのかを改めて伝えて対話することで、目標の解像度が合ってくることと思います。 また、その時に「何をするか」だけでなく「どのようにするのか」も伝えることで、会社の価値観や文化に則った働き方を示すこともできるでしょう。
繰り返しとなりますが、目標管理は本来、人材育成を目的としています。これを評価のツールと位置付けてしまうと、新たなチャレンジが生まれにくくなってしまいます。期待役割とそれに対しての評価は公正である必要がありますが、それに加えて柔軟性のある目標を設定し、現地社員にきちんと伝えていくことは、会社へのエンゲージメントに良い影響をもたらすものと思います。
では実際にこんなケースではどうすればよいのか?と悩まれたら、お気軽にご連絡ください。
グローバルビジネスの最前線で戦う皆様を心から応援しています。
海外赴任で活躍するために、着任後すぐに行うべきこと
その方は若くして大手企業の管理職を担い、専門分野に精通されていて、現地法人の管理部門の責任者として赴任予定です。
ただ、日本本社からの期待役割は大まかには理解しているものの、現地側のニーズや課題は未知数で、また業務上のパートナーとなる現地のマネジャーとは何度か顔を合わせた程度、英語も得意ではないということで、渡航が近づいて現実的に見えてくるにつれて不安が高まっているという状態でした。
このようなケース、多くの会社で起きているのではないでしょうか。
この方は赴任前に問題意識を持たれているので準備もできますが、現地での業務をリアルに想像することなく、「現地に行ってみればわかる」と飛び出していく方も多く見てきました。
確かに、まず現地に飛び込んで消費者の実態を掴んでから構想を練ったという起業家の成功談を聞くことはあります。
ただ、会社や組織のマネジメントとして赴任される方は、着任初日から、現地社員に観られていると言っても過言ではありません。歴史がある拠点になると、「日本人が来なくても自分たちでできる」と思っている現地人材も多いです。
一方で、「日本人が自分でやるだけで、現地に技術やノウハウが残らない」というのも実はとても多い現地側の不満です。表向きは温かく迎えてくれていても、この上司は自分たちに何をもたらす人なのかと、期待や不安、そして諦観などが入り混じっているのではないでしょうか。
新たな国やポジションに着任した際にまず現状を正しく認識するのは勿論大切なことですが、本社の方針を繰り返すだけだったり、既知の問題を解決するだけでは、残念ながら現地社員との距離は縮まらず、専門性や日本とのリエゾンといった「一つの機能」としての認知に留まるでしょう。
私自身も海外赴任後しばらくして、それなりに信頼関係があると思っていた部下から、「この会社にはビジョンがない。この国のことをわかっていない」と痛烈に言われたことがあります。
正直なところ最初は、掲げているビジョンはあるじゃないか、そのために一緒に顧客企業でプロジェクトを行っているじゃないか、くらいにしか捉えられませんでした。また、当時自分はまだNo2の立場で成果を上げることに精一杯で、どこか他人事に感じたのも否めません。
しかし、その後当人と話したり、様々な業界の方から学んでいくと、日本人が掲げるビジョンはあくまでも日本視点の独りよがりであったり、その国の彼らが到達する姿の具体性が欠けていたりすることを否応なく理解しました。
そしてまた、私自身がその責任に向き合わず及び腰だったことも見透かされていたでしょう。
その後間も無く、彼は退職していきました。抽象的なスローガンでなんとなく共通理解が進む日本と違い、海外では3倍のコミュニケーションが必要と言われます。頭では理解していたつもりでしたが、リアルに突きつけられた苦い経験です。
それでは日本人として、現地の部下に何を伝えればよいのでしょう。
そもそも、その現地法人は何のために存在するのでしょうか。
市場開拓、コストやサプライチェーンの最適化、また法規制やリスク対応などさまざまな理由で設立されたことと思います。
それらは全て日本本社側の戦略上の意思決定です(例え政治的な要請などがあったとしても)。従って、現地社員には見えていないかもしれません。
また最近は、現地法人の役割の高度化を目指す企業も増えています。これまでの単一機能から、自立した事業ユニットとして、本社からの要求が変化する中で、現地の現実は追いついていないこともあるでしょう。
現地社員からすると、日本製品やサービスのファンだったり、技術などの強みを理解していたとしても、自分の夢やキャリアを日本企業の枠組みの中で考えられていないことも珍しくありません。
だからこそ日本人のマネジメントには、グローバル、リージョン、その国、機能それぞれの視座で、会社の存在意義と目指す未来像、そして現地法人や社会への貢献を、全体観を持って自分の言葉で示していく必要があります。
「現地社員には言っても伝わらない」「全ての情報は開示できない」という声も聞こえてきそうですが、実はこれまでそういった高い視座や根源的な問いを持ったことがないだけで、きっかけがあれば仕事への向き合い方や、組織風土も劇的に変わるケースを目にしてきました。そのやり方はOJTや1on1から、会議体やイベント、その他仕組み作りまでさまざまですが、一つ言えるのは上司の思いと覚悟が常に変化の起点となることです。
赴任後間もない時期だからこそ、現地法人の代表であってもミドルマネージャーだとしても、組織を率いるリーダーとして、「自分はどんな人間なのか」、「何をするためにここにいるのか」、「現地の現状や課題をどう認識しているのか」、「自社や顧客にどんな価値や変化をもたらすのか」を自分の言葉で社員やステイクホルダーに語っていただきたいと思います。
昇進・異動・海外赴任時に初速を上げるための事前準備
2024年5月
どちらも共通して感じるのは、自分が今、転換点に立っていることを認識する機会があるかどうかで成長速度が大きく変わるということ。
これまでと同じ拠点や組織で管理職に昇進される場合、それまでにチームリーダー的な役割としてマネジメントの訓練期間を経ている方が多いようです。
それはプレイヤーからマネージャーへの移行を図るために有効な機会なのですが、同時にこれまでの延長線で新たな役割を迎える遠因にもなっているように感じます。実際、「来月から管理職になるけどやることは変わらない」という発言、聞いたことありませんか?
海外赴任の場合でも、これまでの担当分野の役割を負って着任されることがほとんどのため、まずは現地のニーズを把握した上で専門性を活かして貢献しようと仰る方が多いです。強みを活かして価値提供するのは勿論大切なことですが、プレイヤーとして問題解決に追われていると、本来の役割を見失うことがあるかもしれません。
「火消しに追われて長期目線でやるべきことができていない」というのも、赴任後しばらく経った駐在員からよく聞く言葉です。
また、ある大手企業の現地法人トップは、「赴任してきても、未知の状況で自分で考えられない人材は活躍できない。残念だがそういう人材はすぐに送り返すようにしてきたら赴任者は少数精鋭になった」と仰っていましたが、それはリソースの豊富な大手だから可能なのは否めないでしょう。
最近、海外トレーニーを派遣する会社はよく理解されていて、以前よく見られたように役割が曖昧なまま送り出して現地での経験や挑戦を本人任せにすることなく、限られた期間内で果たすべきミッションとその先の期待に向けた成長指標を丁寧に示し、モニタリングして必要により軌道修正する仕組みを整えられています。
そういった方と面談していると、現地着任後の立ち上がりがとにかく早いことに驚かされます。本人の意識は勿論のこと、受け入れる現地法人側でもトレーニーの位置付けをよく理解して役割を準備しているため、1ヶ月目から実務貢献と本人の学習・成長が加速しています。
この点は、駐在員の方が昔ながらの放任状態のように感じます。
マネジメントの立場でも、専門家としての赴任でも、渡航先のポジションではこれまでの働き方や視座の変革が必要なことを認識する機会を早い段階で持つことが、現地での成果、また自分自身のパーソナルブランディングに大きく影響します。赴任者は元々実務能力が高い方が多いでしょうし、能力は短期間で大きく変わらないとしても、変革に向けて意識を整える機会を提供することは、会社にとっても有益なことと思います。
国内でも海外でも、新たなポジションに就かれた時に、そこで本質的に求められる役割と、そのために自分の何を変えるのかを、短期と長期の時間軸で改めて考えてみると、違う景色が見えるかもしれません。
海外で働くおもてうら ビジネスパーソンの孤独
その後就職してからアメリカ留学に加え、オーストラリア、シンガポール、タイで駐在し、マレーシア、ベトナム、インドネシア、インドでも仕事をする機会に恵まれました。
そして現在はヨーロッパを拠点としています。
振り返ると本当に目まぐるしく、有難い経験をさせていただいたと心から思うのですが、その真っ只中にいる時は、良くも悪くも想像以上に孤独を感じたのも事実です。海外生活では当然ながら言葉や人間関係、生活面での孤独も感じることがありますが、それは他の方の記述に委ねてここではビジネスパーソンの視点から書いてみます。
良い面は、現地社会ではもちろんのこと、日本のことも外から見るマイノリティになること。それによって視野が広がったり、自由になれたり、アイデンティティが強化されたりという実感があります。個人差はありますが、海外にいる日本人の方が日本の良さを感じていたりします。
一方、悪いというと語弊がありますが辛いのは、程度の差はあれ仕事の責任を一身で負うこと。海外展開の形態はさまざまですが、現地の日本人には、それが駐在であっても現地採用、あるいは起業家であっても、期待と責任、攻めと守りの役割、日本と現地の思惑が直接的に押し寄せてきます。
大きく括ると、そこには3つの壁があったように思います。
戦略の壁
その国や地域のことをよくわかっていない中で仮説で目標を立てたものの、本当にこれで良いのだろうか?市場環境が変わる中で、過去の思い込みに縛られていないだろうか?という疑心。
マネジメントの壁
当然ながら毎日が異文化との遭遇。事前のガイダンスで風習や考え方について少しわかったけど、現地社員は思うように動いてくれないし、コミュニケーションがどうもうまくいっていない気がする。
日本の関係者に頼んだことも反応が遅い。向こうも忙しいのはよくわかるけど、こちらの状況わかってくれているのかな。という心理的距離。
キャリアの壁
毎日忙しいし刺激はあるが、本当に自分の成長になっているのだろうか。日本にいたときは海外の方がチャレンジングと思ったけど、実は日本国内の方がキャリアアップやビジネスチャンスに繋がりやすいのでは?という先行き不安。
もちろん日本から応援してくれる人や、現地の人たちに救われることは何度もありましたが、それでも上述のような感覚を真に共有するのは難しいことを感じていました。
ではどのようにその壁を乗り越えたのか。当然ながらそこに万能薬はなく、対話を通して自分を見つめ、ともすれば見失いがちな北極星を頼りに、その時点の最適解を選択してきた積み重ねでしかないように思います。
今海外の最前線で戦っているビジネスパーソンや、これから挑戦する人たちに少しでも貢献できたらと思っています。